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第1回:「地域ぐるみ」で何に取り組むのか?
1.はじめに
ここ最近、野生動物による被害対策の現場では、「地域ぐるみ」で取り組むことの重要性が強調される機会が多くなっています。集落全体を囲う防護柵の設置やサルの追い払い、集落内に残されたヤブの刈り払いや不要果樹の伐採など、個人の手に負えない作業は、「地域ぐるみ」で協力してやりましょうということなのですが、作業の優先順位や効果については、まだきちんと議論されていないのが実情です。
そこで、この連載では、野生動物による被害対策の基本的な考え方を示しつつ、被害を防ぐために優先的に取り組むべきことは何なのか、その実現に向けてどんなことを「地域ぐるみ」で取り組むべきなのかについて、ご提案したいと思います。
2.被害対策の基本的な考え方
野生動物による被害を防ぐのに、誰もがすぐに思いつく対策は防護柵の設置でしよう。守りたい土地が明確な場合は、その土地に被害を及ぼす動物を入れないことで被害はゼロになるわけですから、これは根本的な問題解決策と言えます。
しかし、現実には、防護柵で野生動物の侵入を完全に防ぐことは困難です。皆さんが丹精こめて作る農作物は、森林内のどんな食べ物よりも魅力的ですし、それが集中的に植えられている農地や集落は、苦労して食べ物を探さなくても満腹になれる最高のエサ場だからです。一度、味をしめた動物は、繰り返し侵入を試みることで、いつかは突破口を見つけてしまいます。当然、動物の数が増えるほどに、そのリスクは高まります。→図1 [PDFファイル/1.26MB]
このため、被害対策では、増えすぎた動物の数を減らすことも不可欠です。農地や集落に被害を及ぼす動物がいなくなれば、被害はゼロになるわけですから、捕獲も防護柵と並んで根本的な問題解決策と言えます。
さらに、この2つの対策は、平行して実施することで相乗効果を生みます。つまり、捕獲によって防護柵を突破しようとする動物の数を減らせるだけでなく、防護柵があることで動物の動きを把握し、予想し、時には誘導さえできるからです。防護柵の存在は、加害動物の捕獲効率を高めることにも貢献します。→図2 [PDFファイル/1.06MB]
本連載では、この「防護柵と捕獲を両輪とした被害対策」の進め方について、とくに地域住民の役割と意義、その効果を示しながら解説していきます。地域の皆さんの限られた労力を、無駄なく、そして無理なく活用するために、この連載が一助となれば幸いです。
株式会社野生鳥獣対策連携センター
専務取締役 阿部 豪