本文
第4回:太宰府・那珂川地域における獣害対策
1.はじめに
全国で自治体の統廃合や人員整理が進む一方で、野生動物は勢力を拡大し、過疎高齢化が進む中山間地域を中心に被害を深刻化させています。被害の進行を食い止め、地域の安全な暮らしを守るためには、対策を行政や狩猟者任せにせず、地域でできることは地域で取り組む自衛の姿勢が不可欠です。
本連載では、その柱となる「防護柵と捕獲を両輪とした被害対策」の進め方について、とくに地域住民の役割と意義、その効果を示しながら解説してきました。地域で情報を共有していただき、獣害に強い集落作りの一助としていただければ幸いです。
2.今後の獣害対策の進め方について
太宰府市・那珂川市鳥獣被害防止対策広域連絡協議会の報告書を見てみると、当地区における被害の中心はイノシシとサル、カラスによる食害であることが読み取れます。ただし、過去3年間の計画的な取組みにより、地域全体の被害金額や被害面積は約70%も軽減しており、両市町の対策努力が確実に成果へと結びついている状況がうかがえます。
中でも広域的な侵入防止柵の整備と、地域住民を巻き込んだ捕獲体制の構築により、被害額全体の76%を占めたイノシシ被害が大幅に軽減されたことは、大きな成果であると言えます。今後も引き続き、現状の対策を継続、発展させていくことができれば、再び安心して農業ができる生活が戻ってくることでしょう。
一方、ニホンザルとカラスについては、データを見る限り、まだ期待したほどの被害軽減にはつながっていないようです。身軽で木登りも上手なニホンザルや、空から攻撃してくるカラスの被害を防ぐのは大変ですが、「防護柵と捕獲を両輪とした被害対策」の原則は変わりません。
防護柵で言えば、それぞれの鳥獣の目線に立ち、効果的に侵入を防ぐための柵の仕様(ニホンザルなら金網柵と電気柵を組み合わせた複合柵、カラスならテグスや防鳥ネットなどが有効です)や維持管理の体制を検討することが重要であり、これらを予防的に整備することで被害は確実に抑えることができるでしょう。
また、どちらもイノシシ同様、習慣性が強く群れで行動する鳥獣ですから、いつも使っている通り道を見つけてわなを設置し、継続的な餌付けでそこを安全なエサ場と学習させることができれば、集落に依存した加害個体を効率的に捕獲することができるはずです。
限られた集落の人手や労力を最大限に活かして、効果的な獣害対策が推進されることを期待しています。
専務取締役 阿部 豪